医療者から見た地域医療のいま

地域医療を支える「かかりつけ医」?わが町のお医者さん?

「病気を診ずして、病人を診よ」を実践して40年

2012. 09. 05   文/梅方久仁子

匝瑳市 守医院院長 守正英氏

長いお付き合いの患者さんは、多いのでしょうか。

 そうですね。先日亡くなった男性は、30年くらい前からの付き合いでした。私より10歳くらい年上の人で、たまたま交通事故でうちに来た時は、大変なアルコール中毒だったんです。そのままではどうしようもないので、嫌酒薬を処方しました。嫌酒薬を飲んでお酒を飲むと七転八倒して苦しむので、お酒を飲めなくなります。奥さんに「この薬を飲ませ続けなさいよ」と説明して、ずっと薬を出し続けました。そうしたら、お酒にお金を使わなくなったので、立派な家が建ちましたよ。

 おかげで病気をしなくって、しばらく付き合いがなかったのですが、2005年くらいからまたお酒を飲みだして、おかしくなってしまったそうです。去年の12月に肺炎で入院して、どうしても自宅で死にたい、私に診てほしいと言ってきたので、「しばらくぶりだね」と挨拶をして、握手をしました。亡くなったのは、その10日後です。

先生と患者さんの距離がとても近いように思います。病気を診るだけではなく、病気というものを通じて人と人との付き合いがあるように思います。

 そうかもしれません。私の母校の慈恵会医科大学では、「病気を診ずして病人を診よ」が建学の精神になっていますから。

長年開業しておられると、地域の人間関係はだいたい分かるものですか。

 家族関係などを含めて、知っている人は多いですね。それにお墓参りに行くと、あっちにもこっちにも、私が死亡診断書を書いた人のお墓があります。ただ、このあたりは昔は農村だったのが、工場がたくさんできて、大勢の人が転居してきています。新しい住民も多いので、知らない人も大勢います。

診察するときに、気を配っていることはありますか。

 最近は、以前よりも1人ずつに時間をかけて診察するようになりました。高血圧の患者さんでも、年をとってくると日常生活の中で歩きにくいとか、他の問題が出てきますよね。それで「生活不活発病にならないように、できるだけ動くといいですよ」といったことも説明します。すると帰る頃になって、突然、「実は最近眠れないんです」と話してくれたりします。時間をかけてじっくり話すことは大切だと思います。