医療者から見た地域医療のいま

「コンビニ受診」も「救急車の適正利用」も、
患者の目線からとらえ直すことが重要だ

2012. 01. 06   文/大森勇輝

宍倉病院 副院長 宍倉朋胤 氏

救急医療に関していえば、救急車の適正利用も問題視されています。

宍倉 何をもって適正とするのかが実は難しい。現在の救急体制はキャパシティーオーバーなので、もう少し絞ったほうがいいという考えは正しいと思います。ただ、患者さんは素人ですから、何かあった際に救急車を呼ぶのは当然のことでしょう。もちろん、病院の場所がわからない、救急車だと待たずにすぐ診てもらえる、あるいは家に車がないといった理由で救急車を呼ぶのは間違っていますが、これは一部にすぎません。

 また、ある種のデータのすり替えも見過ごせません。軽傷者の救急車利用が増えているといわれていますが、軽傷者という言葉には、救急車で運ばれたが入院はしないという人たちが含まれています。たとえば、ぜんそくの発作が起きた、あるいは体のどこかを切って出血したという場合、救急車で運ばれても、発作が収まったり、傷口を縫ってもらったりすれば、入院せず家に帰るでしょう。ところが、こうした救急車を呼ぶ必要がある人たちの事例も、軽傷者の救急車利用としてカウントされてしまうのです。つまり、データのトリックといえます。

 節電もそうですが、「適正」を呼びかけると過剰反応を引き起こしてしまう危険性があるでしょう。いずれにしましても、「コンビニ受診」同様、医師としての言葉遣いというのはものすごく難しいです。ただ、「適正利用」という言葉を使わざるを得ないくらい救急搬送が増えている一方で、救急医療の資源が不足しているのもまた事実です。

 私としては、まずは地域の現状をきっちり伝えることが重要だと思います。身の丈に合った医療、東京とは違うアプローチの医療とはどういうものなのか。もどかしさも感じますが根気強くやっていくしかない、そう思っています。