地域医療ニュース

高齢化と死の問題に真正面から向き合う
終末期医療に関するシンポジウム開催

2013. 05.21   文/大森勇輝

ハッピーな胃ろうとそうでない胃ろうがある

訪問看護ステーション「いちご」管理者 木所律子 氏

 前2名の医師に続いてスピーチを行ったのは、訪問看護師の木所律子氏だ。現在、富里市の訪問看護ステーション「いちご」の管理者である木所氏は、「訪問看護師の立場から」というテーマで、在宅の看取りと胃ろうの問題を語った。

 木所氏によると、現状、在宅での看取りのうち、人工栄養を投与されていない利用者が7割で、残り3割が何らかの形で人工栄養を投与されているとのこと。また、胃ろう造設をしている利用者は10名だが、うち8名はQOL(Quality of Life/生活の質)の向上が見られず、胃ろうが必ずしもQOL向上に役立っているとはいえないという。

 一方で、胃ろうにはそれでもメリット・デメリット双方があると主張。例えば、経鼻チューブより違和感が少なく、誤嚥も少ないこと。点滴より安全で管理がしやすいこと。リハビリが容易なこと。家族が安心できることなどがメリットだと指摘。デメリットとして、皮膚のトラブル、口腔ケアがおろそかになること、本人が勝手に管を抜いてしまうこと、いったん始めたらやめにくいことなどを挙げた。

 また、木所氏が経験したいくつかの事例も解説。誤嚥性肺炎などの恐れから胃ろうを造設したところ、経口摂取も進み行動範囲も広がった人もいるということ。一方で、本人がかわいそうだからという理由で、胃ろうのカロリーがなかなか減らせず、太ってしまった例などを提示し、ケースバイケースで判断せざるを得ない現状を浮き彫りにした。

 これらの問題を踏まえたうえで、木所氏は胃ろうは在宅では優れた人工栄養法であるとした。しかし、上記のようにハッピーな胃ろうとそうでない胃ろうがあるのが現実。また、家族、とりわけ本人に近い家族よりも、周りの親戚が胃ろうを造設するよう介入するケースが多いことも課題とした。胃ろう造設についてやはり大事なのは本人の意思。だからこそ、前述の中村氏同様、「リビングウィル」を残すことが大切だと語った。

胃ろうは優れた人工栄養法であるが、使い方によっては幸福にもなり不幸にもなるという。(クリックすると拡大します)