地域医療ニュース

高齢化と死の問題に真正面から向き合う
終末期医療に関するシンポジウム開催

2013. 05.21   文/大森勇輝

 高齢化がますます進む日本、そして千葉県。待ったなしの対策が求められるなか、千葉県医師会が主催する「第1回終末期医療に関するシンポジウム」が2013年2月23日、アパホテル&東京リゾートベイ幕張で開かれた。
 初回を飾るテーマは「高齢者の終末期の医療およびケア ~胃ろうを造設すべきか~」。胃ろう造設の意義はもちろんのこと、人間としての生き方、そして死に方はどうあるべきか。会場を埋め尽くした約400名の参加者を前に、医療、福祉関係者が様々なアイデアや事例を提示した。

千葉県医師会会長 井上雄元 氏
筑波大学大学院人間総合科学研究科教授 飯島 節 氏

女性の2人に1人は90歳まで生きる社会に

 シンポジウムは、井上雄元千葉県医師会会長の挨拶と、それに続く基調講演で幕を開けた。ゲストスピーカーは筑波大学大学院教授の飯島節氏。氏は日本老年医学会倫理委員会委員長を務めるなど、日本の終末期医療の第一人者だ。「日本老年医学会『高齢者の意思決定プロセスに関するガイドライン~人工的水分・栄養補給の導入を中心として~』」と題して、約1時間にわたり、超高齢化社会と死、看取り、胃ろうをめぐる課題といった終末期医療の最新事情を解説した。

 まず日本人の寿命について。戦後、日本人の寿命は実に30年も伸びたというデータを提示。さらに、実感しづらいかもしれないが、厚生労働省が発表したデータ(平成21年簡易生命表)によると女性の2人に1人は90歳まで生きる社会に突入したと指摘。また、終戦直後の昭和22年に比べて若年層の死亡者が減っており、それは先進国共通の傾向だと解説した。ちなみに「七五三」は、昔は7歳までに亡くなることが多かったから、3歳、5歳、7歳と2年ごとにお祝いをしたことにルーツがあるという。

 そうした現状における重要な課題とは、高齢者をどこで看取るかということ。2003年に終戦直後以来となる100万人を突破した年間死亡者数は、2040年には166万人に増加すると予想されている。

左:厚生労働省が発表した「生命表上の特定年齢まで生存する者の割合」(平成21年)によると、女性の2人に1人は90歳まで生きると指摘した。
右:年間死亡者数は、2040年には166万人にまで増えると予想されている。(クリックすると拡大します)

 今や死亡者の8割が病院で最期を迎えているが、病院は本来看取りの場所ではないので、高齢者にも早く退院してもらいたいという現実がある。そこで、今後は介護と医療を同時に行う終末期医療を進めること、そして高齢者が安心して最期を過ごす場所を確保することが喫緊の課題だと語った。

 さて、こうなるとどうしても避けて通れないのが経済的問題だ。高齢者の終末期医療費は高すぎるとの批判があるが、飯島氏によると必ずしもそうではない。実際のところ、年齢が上がれば上がるほど終末期の医療費は減少している。高齢者医療が医療費を圧迫しているという説に安易に与してはいけないと、飯島氏は戒めた。しかも、日本ほど公的医療保険制度が整備されている国はないのに、世界的に見ても日本の医療費はアメリカの半分(対GDP比)にすぎないというのだ。