2025.12.15
食道と食道がんについて

食道は、口から胃へ食べ物を送るときに通る、長さ約25㎝の管状の器官のことです。消化機能はなく、その内側は、食べ物が通りやすいように粘膜で覆われています。
食道がんは、この食道に発生したがんのことを言います。特に60~70歳代の男性に多く見られるがんです。日本では特に、粘膜の表面の上皮から発生する、「扁平上皮がん」が約90%を占め、食道の中央部分に発生することが多いです。
このほか、胃の近辺の食道に発生するバレット食道がんなどの「腺がん」もあり、近年増加傾向にあります。
食道の周囲には、気管や大動脈、心臓などの重要な臓器が多いため、がんが進行すると、これらに浸潤(隣り合った臓器に食い込み、がんだけを取り除くことが出来ない状態)する危険があります。
食道がんの症状
食道がんが発生した場合、がんの進行状況によって症状が変わってきます。初期は自覚症状がほとんどないため、小さな違和感を見逃さないことが早期発見につながります。
| 喉の奥に痛みやしみるような感覚が発生 |
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| 食物を飲み込んだとき、胸の奥に痛みを感じたり、熱い物を飲んだときしみるように感じることがあります。がんが大きくなるとこの感覚はなくなることもあります。 |
| 食物が喉で詰まる感覚 |
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| がんが大きくなると、食道の内側が狭くなり、食物がつかえるようになります。特に食物を丸ごと飲み込んだときや、よく噛まずに飲み込んだときに起こります。がんがさらに大きくなると、食道の内側を塞いでしまい、食物どころか水も通らなくなってしまいます。 |
| せき、声のかすれ |
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| 食道がんが進行すると、気管や気管支、肺へ広がり、飲食物を摂取するときなどに咳が出たり、血の混じったたんが出たりするようになります。また、食道のすぐ脇を通る声を調節している神経ががんで破壊されると声がかすれてきます。 |
食道がんを予防するには
まずはがんの最大の危険因子である、喫煙、過度な飲酒を止めましょう。特に喫煙と飲酒の併用はがんの発生率を急激に上昇させます。食道がんが男性に多いのは、この2つを併用しているのが男性に多いためともいわれています。また遺伝的にアルコールを代謝しにくい人は、飲酒によるがんのリスクがより高いことが知られています。
このほか、バランスの良い食事をとり、適度な運動を行い、規則正しい生活を送ることも大切です。また、極端に熱い飲食物の摂取により、食道に継続的な刺激を与えていると、食道がんの発がん率を高めてしまうので注意しましょう。
「扁平上皮がん」については、厚生労働省研究班の調査(※)から、野菜や果物を多く摂取することにより、リスクを低減することができるという結果が出ています。
また、最近増加傾向にあるバレット食道がんは、逆流性食道炎に関連して起こるので注意が必要です。
しかし、これらの予防を行っていてもがんが発生することはあります。がんが発生した場合でも、早期発見、早期治療で完治する可能性は高いです。このためにも、定期的な健康診断や人間ドックを受け、常に自分の体の健康状態をチェックするようにしましょう。
(※)厚生労働省研究班「多目的コホート研究」。2008年8月に発表された、日本各地の45~74歳の男性約39,000人を対象とした調査。
食道がんの治療について
| 早期発見・早期治療を |
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| 喫煙や飲酒を止め、野菜や果物を多く摂取したとしても、食道がんを完全に予防することはできません。食道がんによる健康被害を食い止めるためには、やはり早期発見・早期治療が大切です。 |
| 早期発見には |
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| 食道がんも早期であれば内視鏡下に切除することができます。 内視鏡下に切除できる「早期」で見つけるためには、残念ながら自覚症状が出現してからの検査では間に合いません。症状が無くても定期的に検診を受けることが必要です。ただし、初期の食道がんは簡便な検査では発見しづらいため、「上部消化管造影」(バリウムを飲んで転がりながら向きを変えてレントゲン写真を撮る検査)では、この段階で発見することは困難で、「上部消化管内視鏡検査」で詳細な観察を行う必要があります。 |
| 早期食道がんの治療 |
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| 幸運にも早期で発見された食道がんのうち、最も表面の粘膜層に留まる食道がんに対しては、胃内視鏡下に行うESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)やEMR(内視鏡的粘膜切除術)という治療法で根治(病気などを根本から完全になおすこと)が期待できます。不幸にも粘膜下層まで浸潤してしまっても、早期であれば外科手術もしくは抗がん剤や放射線治療を受けることで高い治療成績が期待できます。 |
| 進行食道がんの治療 |
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| 食道がんは臓器を取り巻く「漿膜」というバリアーが無く、進行すると周囲臓器へ浸潤したり、肺や肝臓に容易に転移(がん細胞が飛び火のように広がり、手術で取り除くことができない状態)を起こします。現在、抗がん剤、放射線治療、外科手術を組み合わせることで、以前より治療成績は向上しました。しかし、早期発見・早期治療に勝る治療はありません。 |
予防と適切な方法を用いた検診が、食道がんから命を守る最善の取り組みだといえるでしょう。











