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関連様式集

認知症スピードスクリーニングツール

プライマリ・ケアで役にたつ「認知症スピードスクリーニンング・ツール」

使い方は簡単です 診療時間も短縮できます 外来が楽しくなります

著者および所属

唐澤秀治*, 土居良康**、山本伸一**、安間芳秀**

船橋市立医療センター脳神経外科(現:総合病院国保旭中央病院 脳神経外科)*

船橋市医師会**

1.背景

認知症患者の増加により、プライマリ・ケアを行う「かかりつけ医」が認知症診療の主体となる必要が生じました。船橋市では、2008年7月に、地域における認知症患者とその家族に対する保健・医療・福祉の向上並びに会員の連携及び親睦を図ることを目的として、「船橋市認知症サポート医の会」が発足しました。2009年4月には、認知症の人と家族を支えるための医療支援体制のあり方を協議する会として「船橋市認知症ネットワーク研究会」が発足しました。

このような全市的な活動に呼応して、2009年1月に船橋市立医療センター脳神経外科では、船橋市医師会と協力してかかりつけ医支援型のメモリークリニック(以下MC)を開設しました。投薬を含む治療はかかりつけ医が行い、画像診断を中心とした支援をMCが行うという医療連携システムです。

千葉県医師会では、2015年11月26日に、「第1回認知症サポート医等連携の会」を開催し、著者らはここで、船橋市医師会の取り組みおよびMCで独自に開発した「認知症スピードスクリーニング・ツール」を発表しました。このたび、これらのツールが千葉県医師会のホームページに掲載されることになり、ツールの開発経緯および活用方法について解説いたします。

2.「認知症スピードスクリーニング・ツール」の開発

1) かかりつけ医による認知症診療の問題点
患者・家族の立場になれば、かかりつけ医が認知症に対する診療も行ってくれるのが理想です。しかし、かかりつけ医の立場になると、認知症診療で最も問題になるのは、「非常に時間がかかる」ということです。また、いわゆる認知症専門医の数は極めて少なく、専門医だけで圧倒的多数の患者の治療を行うことは不可能です。やはり、認知症診療の主体は「専門医」ではなく「かかりつけ医」なのです。
2) MCで独自に開発した「認知症スピードスクリーニング・ツール」の種類
MCでは、2009-2010年のデータをもととして、2011年に以下の「認知症スピードスクリーニング・ツール」を開発しました1),2)。
物忘れスピード問診票および物忘れスピード鑑別表(本HPの表1表2表3
物忘れFAST問診票(表4
物忘れCDR問診票(表5
AD・MCI問診票(表6
VaD・VaMCI問診票(表7
DLB問診票(表8
bvFTD問診票(表9
認知症の神経学的検査早見表(表10

上記のうち、①は認知機能低下を主訴として来院した患者・付添者に記載してもらう問診票であり、これにより「加齢による物忘れ、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー型認知症(AD)、脳血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、偽性認知症(仮性認知症)、急性疾患」の8種類の代表疾患のスクリーニングができます。スピード問診票の評価パターンと最終診断との一致率は約70%でした1)。 ②および③は、国際的な評価基準3), 4)にしたがって、認知症の重症度の評価が簡単にできるものです。④⑤⑥⑦は最新の国際的な診断基準にしたがって「アルツハイマー型認知症および軽度認知障害(MCI)」5),6)、「血管性認知症および血管性軽度認知障害」7)、「レビー小体型認知症」8)、「前頭側頭型認知症」9)の診断ができる問診票兼評価表です。⑧は、かかりつけ医が一般的に苦手とする認知機能に関する神経所見の取り方をわかりやすくまとめたものです。(これらのうち、①は月刊地域医学からの転載です)。

2012年には、船橋市内で「かかりつけ医向けの認知症スピード診断研修会(ツールの使い方は簡単です、診療時間も短縮できます、認知症外来が楽しくなります)」を合計8回開催しました。この結果、かかりつけ医は、外来で自信を持って認知症診療を行うことができるようになりました。

3.かかりつけ医のニーズに応じたツールの活用方法

現在、船橋市内のかかりつけ医は、それぞれのニーズに応じて、スピードスクリーニング・ツールを活用しています。

(a) 物忘れを主訴とした患者の簡便なスクリーニングを行いたい場合: ①物忘れスピード問診票および②物忘れFAST問診票を使用する。
(b) 認知機能低下の神経学的検査を行いたい場合: 改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)またはMini-Mental State Examination(MMSE)、時計描画テスト(CDT)、および「⑧認知症の神経学的検査早見表」の中で最も重要な「構成障害に関する検査(手指の構成課題と回転課題)」を行う。
(c) 最新の国際診断基準にしたがって認知症の診断を行いたい場合: ④⑤⑥⑦を使用する。

以下、スピードスクリーニング・ツールの使い方を解説します。

1) 物忘れスピード問診票および物忘れスピード鑑別表
症状チェックと進行パターンチェックをみれば、病状の全体像がパターン判定できるように工夫されています。たとえば、左側(1~10)の記憶障害が中等度から重度あり、中央(11~20)の記憶障害以外の中核症状が1項目以上あり、進行パターンが【B】または【C】ならば認知症と考えられます。DLB、FTDその他の疾患が除外できれば、認知症の中でもアルツハイマー型認知症(AD)が最も疑われます。また、記憶障害が軽くても、記憶障害以外の中核症状が2項目以上あり、進行パターンが【B】または【C】ならばやはり認知症と考えられます(2011年のNIA-AA criteria)。
また昨今、高齢者が詐欺事件の被害にあうことが社会問題化していますが、この点を症状チェックの18番で確認できるように工夫してあります。
2) 物忘れFAST問診票
FASTとは、ニューヨーク市立大学で開発されたアルツハイマー型認知症(AD)の重症度評価基準ですが、いざ評価しようとするとかなり時間を要するものです。Stage 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 がそれぞれ、正常(健康)、年齢相応、境界(MCIに相当)、軽度のAD 、中等度のAD、やや高度のAD、高度のADに対応しています。
物忘れFAST問診票の記載者は、患者本人でも、付添者でも、または両者でもけっこうです。左側に15項目の質問があり、それに対して回答Aまたは回答Bのチェックボックスに印をつけてもらうだけの簡便な様式にしてあります。回答Bの上から下のチェックボックスのどこまで印がついているかにより、重症度の評価が簡単にできます。現在、認知症高齢者の運転事故が社会問題化していますが、この問診票では、運転免許の有無および運転の危険性に関しても把握できるように工夫してあります。
3) 物忘れCDR問診票
CDRとは、ワシントン大学で開発された認知症の重症度評価基準です。FASTと異なる点は、認知機能を日常生活活動(ADL)6項目別に評価できることですが、FAST同様に評価にかなりの時間を要し、スクリーニングには不向きであるといわれています。
物忘れCDR問診票は、14項目の質問に回答してもらうだけで、各ADLの点数、それらの合計点、そして総合判定スコアを簡便に評価できるように工夫してあります。
4) AD・MCI問診票、VaD・VaMCI問診票、DLB問診票、bvFTD問診票
これらの問診票は、背景が白い部分の症状の有無を患者本人、付添者、または両者にチェックしてもらい、網掛け部分を担当医がチェックするだけで国際診断基準にしたがった診断ができるように工夫したものです。左側をみれば診断基準に合致しているかどうかが簡単に判断できます。英語と日本語との対応で注意しなければいけないのは、"probable"は「可能性が高い、ほぼ確実」、"possible"は「可能性がある、疑い」という意味です。

4.症例提示

スピードスクリーニング・ツールを具体的にどのように活用したらよいのか、症例を8例提示します。特に、症例3と症例4では、FAST問診票とCDR問診票の使い方がわかるようにしてあります。かかりつけ医の先生方が、これらの症例を順にみていただければ、すぐに外来でツールを使用することができます。「使い方は簡単です。診療時間も短縮できます。外来が楽しくなります。」を実感していただけます。

5.まとめ

現在、地域ごとに認知症に対する取り組みが行われています。認知症診療の主体になるのはプライマリ・ケアを行う「かかりつけ医」であり、認知症専門医や介護福祉の専門職との連携が非常に大切です。認知症に対する医療と福祉の成功の鍵は「多職種の役割分担、連携・協力」です。

1) 唐澤秀治、安間芳秀、宇田川雅彦、他。物忘れスピード問診票・鑑別表の信頼性と妥当性に関する研究。月刊地域医学、28(6);504-512、2014.
2) 唐澤秀治:脳外科での認知症診断の流れ、認知症原因診断のための脳画像 内科系と脳外科の診断流儀 p.21-32、松田博史、朝田隆編集、ぱーそん書房、2015
3) Reisberg B, Ferris SH, de Leon MJ. Senile dementia of the Alzheimer type: Diagnostic and differential diagnostic features with special reference to Functional assessment staging. Senile dementia of the Alzheimer type Ed. by Traber J, Gispen WH. Springer-Verlag, New York, 1985; 18-37.
4) Morris JC. The Clinical dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 43; 2412-2414, 1993.
5) McKhann GM, Knopman DS, Chertkow H, et al: The diagnosis of dementia due to Alzheimer's disease: Recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia 2011; 7: 263-269
6) Albert MS, DeKosky ST, Dickson D, et al: The diagnosis of mild cognitive impairment due to Alzheimer's disease: Recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia 2011; 7: 270-279
7) Gorelick PB, Scuteri A, Black SE, et al: Vascular contributions to cognitive impairment and dementia: A statement for Healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 2011; 42: 2672-2713
8) McKeith IG, Dickson DW, Lowe J, et al: Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies, Third report of the DLB consortium. Neurology 2005; 65: 1863-1872
9) Rascovsky K, Hodges JR, Knopman D, et al: Sensitivity of revised diagnostic criteria for the behavioural variant of frontotemporal dementia. Brain 2011; 134: 2456-2477
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